蕪の新香

山之口貘

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見おぼえのある顔だとおもっていると 芹田ですと来たのでわかったのだ かれはいつぞや原稿の催促に ぼくのところを訪ねて来たのだ ぼくのところでは生憎と なんにもない日ばかりがつづいていたので 来客のたんびに夫婦してまごついたのだ それでもお茶のかわりにと 白湯を出してすすめ お茶菓子のかわりに 蕪の新香を出してすすめたのだ かれはしかし手もつけなかった いかにも見ぬふりをしているみたいに そこにかしこまってかたくなっているのだ 足をくずしてお楽にとすすめると これが楽ですとひざまづいているのだ 蕪の新香はきらいなのかときくと こっくりに素直さが漂った ぼくは今日の街なかで かれに逢ったことを手みやげにして 芹田君に逢ったと女房に伝えたのだが 女房にはすぐには通じなかった 蕪の新香のきらいなと言うと あああの芹田さんかとうなずいたのだ

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