鹿と借金

山之口貘

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山の手のでぱあとの一角に 珈琲の店を経営しているとかで うまい珈琲を ごちそうしたいと彼は言った 岬の方には釣舟をもっているとかで 釣へも案内したいと彼は言った なかでも自慢なのは鉄砲とかで いずれそのうちに 鹿を射止め 鹿の料理をごちそうしたいとかれは言った ぼくはかれに逢うたんびに いまにもそこに出て来そうな 鹿だの釣だの珈琲だのをたのしみにして かれの顔をのぞいては まだかとおもったりしないではいられなかった ところがどうにも仕方のないことがあって ぼくはついかれに 金を借りてしまったのだ そのかわりみたいにそれっきり ごちそうの話がひっこんでしまって 金の催促ばかりが出てくるのだ

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