數學

山之口貘

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安いめし屋であるとおもひながら腰を下ろしてゐると 側にゐた青年がこちらを振り向いたのである 青年は僕に酒をすすめながら言ふのである アナキストですか さあ! と言ふと コムミユニストですか さあ! と言ふと ナンですか なんですか! と言ふと あつちへ向き直る この青年もまた人間なのか! まるで僕までが なにかでなくてはならないものであるかのやうに なんですかと僕に言つたつて 既に生れてしまふた僕なんだから 僕なんです うそだとおもつたら みるがよい 僕なんだからめしをくれ 僕なんだからいのちをくれ 僕なんだからくれくれいふやうにうごいてゐるんだが見えないのか! うごいてゐるんだから めしを食ふそのときだけのことなんだといふやうに生きてゐるんだが見えないのか! 生きてゐるんだから 反省するとめしが咽喉につかへるんだといふやうに地球を前にしてゐるこの僕なんだが見えないのか! それでもうそだと言ふのが人間なら 青年よ かんがへてもみるがよい 僕なんだからと言つたつて 僕を見せるそのために死んでみせる暇などないんだから 僕だと言つても うそだと言ふなら 神だとおもつて かんべんするがよい 僕が人類を食ふ間 ほんの地球のあるその一寸の間

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