轉居

山之口貘

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詩を書くことよりも まづめしを食へといふ それは世間の出來事である 食つてしまつた性には合はないんだ もらつて食つてもひつたくつて食つても食つてしまつたわけなんだ 死ねと言つても死ぬどころか死ぬことなんか無駄にして食つてしまつたあんばいなんだ ここに食つたばかりの現實がある 空つぽになつて露はになつた現實の底深く 米粒のやうに光つてゐた筈の 兩國の佐藤さんをもつひに食つてしまつた現在なんだ 陸はごらんの通りの陸である 食はうとしてもこれ以上は 食ふ物がなくなつたんだといふやうに電信柱や塵箱なんか立つてゐて まるでがらんとしてゐる陸なんだ 言はなくたつて勿論である めしに飢えたらめしを食へ めしも盡きたら飢えも食へ飢えにも飽きたら勿論なんだ 僕を見よ 引つ越すのが僕である 白ばつくれても人間面をして 世間を食ひ廻るこの肉體を引き摺りながら 石や歴史や時間や空間などのやうに なるべく長命したいといふのが僕なんだ お天氣を見よ それは天氣のことなんだ 海を見よ 陸の隣りが海なんだ 海に坐つて僕は食ふ 甲板の上のその 生きた船頭さんをつまんで食ひながら 海の世間に向つては時々大きな口を開けて見せるんだ 魚らよ びつくりしなさんな 珍客はこんなに太つてゐても 陸の時代では有名な いはゆる食へなくなつた詩なんだよ

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