人故妻を逐はれて
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水の上飛ぶかげろふの
羽を鯇の透かし視て
尾上の花や散りくると
ひれ振り尾振り跳るらむ
雲のはたてに月沒りて
沼に光の消えにけり
濕れる棹を手にすれど
さすは枻無き藻苅舟
月波に燃ゆる紅の
八雲は山の陰毎に
殘れる夜の雲染めて
二つの峰は清らなり
堤は低し木は荒し
西北に亘る山浪の
黒髮山に誰妻の
うす絹被く眉にせむ
朝たなびく夏霞
不二は夏より見ゆるてふ
沼の半に漂ひて
霞にきらふ船路かな
菱の實落つる沼なれば
白羽の鳥も翔るなり
羨ましきは羽すりて
雌雄共に棲む白鳥よ
船の動くにつと迯げて
葦間の杙に鳴き交す
鳥には輕き羽あれば
さしまねけども寄らずして
憎しとも思ふ浪の上の
鳥の如くにいたはりし
人はわが家を去りて後
寂しき秋となりにけり
朝髮梳る床の上
眉根粧ふ閨の裡
袂にくゝる八房の
若紫の色も濃く
雨降る夕、わが前に
裁縫をすとていねむりて
廣くとりたる前髮を
机にあてゝ壞せしも
頬に突くかゞち、知らぬ間に
鳴らさむとして覺られて
笹紅匂ふ唇に
ふたゝび珠を返せしも
人故妻を逐はれて
知るは二人の涙のみ
(羨ましきは羽すりて
雌雄共に棲む白鳥よ)
美しき物、はなたじと
握りし鳥は奪はれぬ
人故妻を逐はれて
さめぬ白日の夢に耄れ
雲流れ行く東路に
何しに來ぬる我ならむ
松稀にして榛多き
常陸は山も高からず
(菱の實おつる沼なれば
白羽の鳥も翔るなり)
ぬなはの若芽掻きよせて
摘めども船の慰まで
思へば鳥の逐はるゝも
逐はれて草に隱るゝも
大路を過ぐる花車
少女は花の小車か
さす手にひらく春の花
ひく手に飜る秋の波
灯影ゆらめく細殿に
扇飜し舞姫と――
伊賀より落つる木津川の
石皆圓き川の上
雪と漲る浪の戸に
赤裳かゝげて立ちたると――
西京に近き荒寺の
崩し築土に身を寄せて
森の公孫樹に落る日の
光に泣きし尼君も――
燈籠舊りし石階を
鹿に恐れて驅け上り
紅潮しゝ頬の色の
花の如くに光りたると――
人は往けり還りけり
とゞろと渡る花車
蜘手の道の遠くして
のこるは暗き花の影
野守の鏡
面銹びて
形象を落す
雲も無し
還らぬ人の
一人にのみ
神は戀ふるを
許せども
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