竺志舟

横瀬夜雨

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新妻の卷 浪を離るゝ横雲の 壞れて騷ぐ松浦や 鸊※飛ぶ姫島の 沖より白む朝ぼらけ 片帆下せし港江に つらなる水の青うして 影消え殘る一つ星 北の海こそ遙かなれ 煙は迷ふ島原の 野母の岬の潮さゐに 小舟やるとて腰みのを 絞るになれし我ならん 鴎かくるゝ荒磯に 蝉口しめて眺むれば 石迸る火の山の 照先閃めく海の上 卒倒婆流せし薩摩潟 小島の沖に漂ふも 竹もて編みし小枕に ゆらるゝ夢の安きかな 艫より落ちていくそ度 母の熊手にかゝりけん 凧をへさきに飛ばしては 糸は潮にぬらせしを 榕樹の枝に秋たけて 雎鳩夜鳴く蹉跎の島 珊瑚の床のなめらかに 千重敷浪ぞ限り無き 西へ西へと行く月を 見れば流石に泣かるれど 青石築く墓ならで 陸には居らむ家も無く 南に遠き八重山の 島根を洗ふ黒潮に 流れも寄るか橘の 花は常世に馨るらん 月に天ぎる明方の 峰の花こそこぼれ來ね 浮べる舟の閨の外に 綾の霞の繞れるを 海の門渡る雁金の 翼を空に羨むも 八重の汐路のいづれにか 浪を凌ぎて歸るべき 行かんか舟は輕かるに 錨の綱を捲きあげて 碎かば石に金色の 輝く島も無からずや 角いかめしき馴鹿に 橇を引かせて雪の野に 天をかざれる紅の 北の光を仰ぐべく 月落ちかゝる黒龍江の 巖の上に虎吼えて 君柔肌に粟立たば わが手に縋れ劒あり 行方跡無き不知火の 筑紫の海に生れては 氷の山に海豹の 牙を磨くに膽消えん 砂にまみれし青貝を 拾ひて憂を遣らんとも 松浦戀しくなりぬ時 あはれならまし花の妻 翼しをれし五位鷺の 雨を怨みて帆柱に 鳴くは濱べの雌をや呼ぶ かすめる山は笹島か 手箱に秘めし花ぐしを 忘るともなく君さゝで あたらほつれし前髮よ 白き額はかくさゞれ 思へばつらき浮寢にも 花なる人にともなひて 行きて別るゝ   涙無く 後れてぬらす   衣無きに 空も水なる   大海に わが漕ぐ舟を   誰か遮る 浮寢の卷 羨まし 誰をみ空の流れ星 暮るれば出て 光知るらん 暮るれば出る星ならで 篷をおほへる浮舟の 千鳥鳴く夜を妹許と 知らじな親は船にして 尾花が袖に露しげき 朱雀の野べの秋は不知 のれる星棧は輕かれど たやすく浪にかへらんや 龍頭にかゝる九曜星 光は霧にまよひつゝ 櫓の音ぬすみて笹島の 澳に入り行く小舟ありき あじさし翔ける白濱に 沈める珠を探るとて 若き乳房も仇浪の なぶるになれし海士の子よ 額にかゝる前髮の みだれそめしが戀ならば 京の紅とや唇に さゝねど人を戀しけむ 秋雨そゝぐ舲に 彈くべき琴も持たねども 三重卷く帶の端長く けぶれる髮の美しう  *   *    *   * めぐるに早き春の夜の 月は東に歸りけり 八重の潮路のたゞ白く 秋は光の寒きかな 手繰りし綱に枕して ひそかに衿をぬらすとも 春かへり來る中空に 夢のおもかげ殘るらん 終に別るゝ殘懷なき 星合の空にはろ/″\と あこがれ渡る釣人の 涙は頬に流るれど ※戕振り立て纜ひせし あまのはしぶね音づれて 燎火白む曉の 鐘こそかすかに響きたれ 水より淡き   月の 影は仄かに   殘りたり 輪廓燃ゆる   紫の 八雲棚引く   和田の原 朝日を洗ふ   浪の穗に 輝く光   くづれては 空を貫く   金色の 百筋の箭と   閃めきて 湧きもめぐらふ   新潮の 巖うつ音の   高ければ 降りん隙なき   鶚 聲は磯曲に   かすみつゝ

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