Aの字の歌

与謝野晶子

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Ai (愛)の頭字、片仮名と アルハベツトの書き初め、 わたしの好きなAの字を いろいろに見て歌ひましよ。 飾り気の無いAの字は 掘立小屋の入り口、 奥に見えるは板敷か、 茣蓙か、囲炉裏か、飯台か。 小さくて繊弱なAの字は 遠い岬に灯台を ほつそりとして一つ立て、 それを繞るは白い浪。 いつも優しいAの字は 象牙の琴柱、その傍に 目には見えぬが、好い節を 幻の手が弾いてゐる。 いつも明るいAの字は 白水晶の三稜鏡に 七つの羽の美くしい 光の鳥をじつと抱く。 元気に満ちたAの字は 広い沙漠の砂を踏み さつく、さつくと大足に、 あちらを向いて急ぐ人。 つんとすましたAの字は オリンプ山の頂に 槍に代へたる銀白の 鵞ペンの尖を立ててゐる。 時にさびしいAの字は 半身だけを窓に出し、 肱をば突いて空を見る 三角頭巾の尼すがた。 しかも威のあるAの字は 埃及の野の朝ゆふに 雲の間の日を浴びて はるかに光る金字塔。 そして折折Aの字は 道化役者のピエロオの 赤い尖つた帽となり、 わたしの前に踊り出す。

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