午前三時の鐘

与謝野晶子

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上野の鐘が鳴る。 午前三時、 しんしんと更けわたる 十一月の初めの或夜に、 東京の街の矮い屋根を越えて、 上野の鐘が鳴る。 この声だ、 日本人の心の声は。 この声を聞くと 日本人の心は皆おちつく、 皆静かになる、 皆自力を麻痺して 他力の信徒に変る。 上野の鐘が鳴る。 わたしは今、ちよいと 痙攣的な反抗が込み上げる。 けれど、わたしの内にある 祖先の血の弱さよ、はかなさよ、 明方の霜の置く 木の箱の家の中で、 わたしは鐘の声を聞きながら、 じつと滅入つて 筆の手を休める。 上野の鐘が鳴る。

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