花子の歌四章(童謡)
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九官鳥
九官鳥はいつの間に
誰が教へて覚えたか、
わたしの名をばはつきりと
優しい声で「花子さん。」
「何か御用」と問うたれば、
九官鳥の憎らしや、
聞かぬ振して、間を置いて、
「ちりん、ちりん」と電鈴の真似。
「もう知らない」と行きかけて
わたしが云へば、後ろから、
九官鳥のおどけ者、
「困る、困る」と高い声。
薔薇と花子
花子の庭の薔薇の花、
花子の植ゑた薔薇なれば
ほんによう似た花が咲く。
色は花子の頬の色に、
花は花子のくちびるに、
ほんによう似た薔薇の花。
花子の庭の薔薇の花、
花が可愛いと、太陽も
黄金の油を振撒けば、
花が可愛いと、そよ風も
人目に見えぬ波形の
薄い透綾を著せに来る。
側で花子の歌ふ日は
薔薇も香りの気息をして
花子のやうな声を出し、
側で花子の踊る日は
薔薇もそよろと身を揺り
花子のやうな振をする。
そして花子の留守の日は
涙をためた目を伏せて、
じつと俯向く薔薇の花。
花の心のしをらしや、
それも花子に生き写し。
花子の庭の薔薇の花。
花子の熊
雪がしとしと降つてきた。
玩具の熊を抱きながら、
小さい花子は縁に出た。
山に生れた熊の子は
雪の降るのが好きであろ、
雪を見せよと縁に出た。
熊は冷たい雪よりも、
抱いた花子の温かい
優しい胸を喜んだ。
そして、花子の手の中で、
玩具の熊はひと寝入り。
雪はますます降り積る。
蜻蛉の歌
汗の流れる七月は
蜻蛉も夏の休暇か。
街の子供と同じよに
避暑地の浜の砂に来て
群れつつ薄い袖を振る。
小さい花子が昼顔の
花を摘まうと手を出せば、
これをも白い花と見て
蜻蛉が一つ指先へ
ついと気軽に降りて来た。
思はぬ事の嬉しさに
花子の胸は轟いた。
今美くしい羽のある
小さい天使がじつとして
花子の指に止まつてる。
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