春より夏へ

与謝野晶子

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八重の桜の盛りより つつじ、芍薬、藤、牡丹、 春と夏との入りかはる このひと時のめでたさよ。 街ゆく人も、田の人も、 工場の窓を仰ぐ身も、 今めづらしく驚くは 隈なく晴れし瑠璃の空。 独立つ木も、打むれて 幹を出す木も枝毎に 友禅染の袖を掛け、 花と若芽と香り合ふ。 忙しき蝶の往来にも 抑へかねたる誇りあり、 ただ一粒の砂さへも 光と熱に汗ばみぬ。 まして情に生くる人、 恋はもとより、年頃の 恨める中も睦み合ひ、 このひと時に若返る。 ああ、またありや、人の世に 之に比ぶる好き時の。 いでや短き讃歌も 金泥をもてわれ書かん。

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