地震後一年

与謝野晶子

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九月一日、地震の記念日、 ああ東京、横浜、 相模、伊豆、安房の 各地に生き残つた者の心に、 どうして、のんきらしく、 あの日を振返る余裕があらう。 私達は誰も、誰も、 あの日のつづきにゐる。 まだまだ致命的な、 大きな恐怖のなかに、 刻一刻ふるへてゐる。 激震の急襲、 それは決して過ぎ去りはしない、 次の刹那に来る、 明日に、明後日に来る。 私達は油断なく其れに身構へる。 喪から喪へ、 地獄から地獄へ、 心の上のおごそかな事実、 ああこの不安をどうしよう、 笑ふことも出来ない、 紛らすことも出来ない、 理詰で無くすることも出来ない。 若しも誰かが 大平楽な気分になつて、 もう一年たつた今日、 あのやうなカタストロフは無いと云ふなら、 それこそ迷信家を以て呼ばう。 さう云ふ迷信家のためにだけ、 有ることの許される 九月一日、地震の記念日。

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