古簾

与謝野晶子

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今年も取出して掛ける、 地震の夏の古い簾。 あの時、皆が逃げ出したあとに この簾は掛かつてゐた。 誰れがおまへを気にしよう、 置き去りにされ、 家と一所に揺れ、 風下の火事の煙を浴びながら。 もし私の家も焼けてゐたら、 簾よ、おまへが 第一の犠牲となつたであらう。 三日目に家に入つた私が 蘇生の喜びに胸を躍らせ、 さらさらと簾を巻いて、 二階から見上げた空の 大きさ、青さ、みづみづしさ。 簾は古く汚れてゐる、 その糸は切れかけてゐる。 でも、なつかしい簾よ、 共に災厄をのがれた簾よ、 おまへを手づから巻くたびに、 新しい感謝が 四年前の九月のやうに沸く。 おまへも私も生きてゐる。

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