幻の銀杏
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みちのくの津軽の友の
云ひしこと、今ゆくりなく
思ひ出で、涙流るる。
悲しやと、さまで身に沁む
筋ならず聞きつることの、
年を経て思はるるかな。
おん寺の銀杏の大木、
色うつり、黄になる見れば、
朝夕になげかるるなり、
忌はしく、ゆゆしき冬の、
近づきし、こと疑ひも
なきためと、友は云ひてき。
今われが柱に倚りて
見るものに、青青たらぬ
木草なし、満潮どきの
海鳴りのごと蝉の鳴く、
八月に怪しく見ゆれ、
みちのくの、板柳町
岩木川流るるあたり、
古りにたる某でらの
境内の片隅にして、
上向きに枝を皆上げ、
葉のいまだ厚き銀杏の
黄に変り、冬を示せる
立姿、かの町びとの
目よりまた、除きがたかる、
寂しさの備る銀杏。
うつつにし、見るにもあらず、
この庭に立つにはあらず、
衰へし命の中に、
見ゆるなれ、北の津軽の
黄葉する大木の銀杏。
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