鈴蘭の変死

与謝野晶子

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鈴蘭は変貌します。 鈴蘭は変貌をしません。 この花は優しい。 この花は恐しい。 草野を飾る花。 グロテスクな花。 北海道の方方に、 思つたままを云ひませう。 私の遠い昔の五月の日、 通り過ぎたシベリヤは、 むらむらの白樺を混ぜた 鈴蘭の原であつた。 早春の雪の厚さで、 盛られた鈴蘭の大野、 鈴蘭の気流の中を、 私は三日程進んで行つた。 函館のトラピストの庭で、 尼君の名を問ふと、 伊藤とも加藤とも云はれず マルチノと告げられた。 尼マルチノと私は並んで立つた、 仄かな鈴蘭の香の中で。 花は撒かれた霰ほどだつた。 尼君は私のために摘んだ。 六月に入ると北国から、 箱詰めにして送られる鈴蘭、 おのれの強い芳香の、 化学的変化が、 毒素になつて死ぬ鈴蘭。 初めだけは白花、青い葉。 二日日には満身の赤錆。 毒死するのです。 五臓六腑うに沁み渡る、 芝居はともかくも、 この台詞は音楽的である。 死の舞台の音羽屋より、 茶けた鈴蘭は劣る。 服毒した鈴蘭を、 今も憐んで云ふ、 押花になつてくればよかつた。 王の栄華と耶蘇の比べた、 百合はアネモネだと云ふ説のやうに、 強烈な色に印度では咲く 沙羅双樹か知らぬが、 日本の山の白い沙羅は、 あてに、いみじく、脆い花である。 初めもはても高雅である。 鈴蘭を何故変死させますか。

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