蜜柑の木

与謝野晶子

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朝の光が外にゐて、 さて鎧戸と、窓掛と、 その内側の白い蚊帳、 かうした中に生えてゐる、 蜜柑の若木五六本。 それが私に見えるのだ。 いまだ開かぬ瞼ごし、 まぼろしでなく夢でなく、 昨日の朝も今朝も見る。 香の木の実が生るでなし、 はなたちばなが咲くでなし、 蜜柑の木より榊とも、 樒の木とも云ふ方が、 かなつたやうな若い木で、 穂すすきめいた弓なりの、 四尺ばかりの五六本。 初めの朝に蜜柑だと、 決めて眺めた緑の木。 熊野の浦の浜畑の、 白い沙地と見えるのは、 まさしく蚊帳の麻の目よ。 私はこれを楽しんで、 見てゐながらも思ひます。 かうした蚊帳の中にある、 蜜柑畑のほの白い、 沙子の中で人しれず、 生命終つて横たはる、 朝が私にあることを。

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