〔無題〕(『晶子詩篇全集拾遺』収録・同題第27篇)
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若い娘の言ふことに、
「別れを述べる時が来た。
美くしい花、にほふ花。
わたしの無垢な日送りに
さびしい友であつた花。
今日までわたしを慰めた
やさしい花のかずかずに、
別れを述べる時が来た。
花の神様、いざさらば。
わたしは愛の神様に
手をば執られて参りましよ。」
若い娘の言ふことに、
「別れを述べる時が来た。
美くしい花、にほふ花。
弥生に代る初夏の、
青い海から吹いて来る
五月の風に似た男、
若い、やさしい、あたたかな、
生々としたあの男、
すべての花に打勝つて、
その目にわたしを引附けた。
男の中の花男。」
若い娘の言ふことに、
「別れを述べる時が来た。
美くしい花、にほふ花。
おお、その上に、よい声で、
いつもわたしを呼び慣れた
赤い小鳥よ、そなたにも、
別れを述べる時が来た。
どれどれ籠から放しましよ。
済まないながら、今日からは、
燃えた、やさしいくちびるの外に聞きたい声もない。」
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