男の胸

与謝野晶子

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名工のきたへし刀 一尺に満たぬ短き、 するどさを我は思ひぬ。 あるときは異国人の 三角の尖あるメスを われ得まく切に願ひぬ。 いと憎き男の胸に 利き白刄あてなん刹那、 たらたらと我袖にさへ 指にさへ散るべき、紅き 血を思ひ、我れほくそ笑み、 こころよく身さへ慄ふよ。 その時か、にくき男の 云ひがたき心宥さめ。 しかは云へ、突かんとすなる その胸に、夜としなれば、 額よせて、いとうら安の 夢に入る人も我なり。 男はた、いとしとばかり その胸に我れかき抱き、 眠ること未だ忘れず。 その胸を今日は仮さずと たはぶれに云ふことあらば、 我れ如何に佗しからまし。

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