巴里の一夜
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テアトル・フランセエズの二階目の、
紅い天鵞絨を張りつめた
看棚の中に唯だ二人
君と並べば、いそいそと
跳る心のおもしろや。
もう幕開の鈴が鳴る。
第一列のバルコンに、
肌の透き照る薄ごろも、
白い孔雀を見るやうに
銀を散らした裳を曳いて、
駝鳥の羽のしろ扇、
胸に一りん白い薔薇、
しろいづくめの三人は
マネが描くよな美人づれ、
望遠鏡の銃が四方から
みな其処へ向くめでたさよ。
また三階の右側に、
うす桃色のコルサアジユ、
金の繍ある裳を著けた
華美な姿の小女が
ほそい首筋、きやしやな腕、
指環の星の光る手で
少し伏目に物を読み、
折折あとを振返る
人待顔の美くしさ。
あら厭、前のバルコンへ、
厚いくちびる、白い目の
アラビヤらしい黒奴が
襟も腕も指さきも
きらきら光る、おなじよな
黒い女を伴れて来た。
どしん、どしんと三度程
舞台を叩く音がして、
しづかに揚る黄金の幕。
よごれた上衣、古づぼん、
血に染むやうな赤ちよつき、
コツペが書いた詩の中の
人を殺した老鍛冶が
法官達の居ならんだ
前に引かれる痛ましさ、
足の運びもよろよろと……
おお、ムネ・シユリイ、見るからに
老優の芸の偉大さよ。
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