驟雨

与謝野晶子

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驟雨は過ぎ行く、 巴里を越えて、 ブロオニユの森のあたりへ。 今、かなたに、 樺色と灰色の空の 板硝子を裂く雷の音、 青玉の電の瀑。 猶見ゆ、遠山の尖の如く聳だつ 薄墨のオペラの屋根の上、 霧の奥に、 猩猩緋と黄金の 光の女服を脱ぎ放ち、 裸となりて雨を浴ぶる 夏の女皇の 仄白き八月の太陽。 猶、濡れわたる街の並木の アカシヤとブラタアヌは 汗と塵埃と※を洗はれて、 その喜びに手を振り、 頭を返し踊るもあり。 カツフエのテラスに花咲く 万寿菊と薔薇は 斜に吹く涼風の拍子に乗りて そぞろがはしく ワルツを舞はんとするもあり。 猶、そのいみじき 灌奠の余沫は 枝より、屋根より、 はらはらと降らせぬ、 水晶の粒を、 銀の粒を、真珠の粒を。 驟雨は過ぎ行く、 爽やかに、こころよく。 それを見送るは 祭の列の如く楽し。 わがある七階の家も、 わが住む三階の窓より見ゆる 近き四方の家家も、 窓毎に光を受けし人の顔、 顔毎に朱の笑まひ……

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