正月(『晶子詩篇全集』収録・同題第2篇)

与謝野晶子

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正月を、わたしは 元日から月末まで 大なまけになまけてゐる。 勿論遊ぶことは骨が折れぬ、 けれど、外から思ふほど 決して、決して、おもしろくはない。 わたしはあの鼠色の雲だ、 晴れた空に 重苦しく停つて、 陰鬱な心を見せて居る雲だ。 わたしは断えず動きたい、 何かをしたい、 さうでなければ、この家の 大勢が皆飢ゑねばならぬ。 わたしはいらいらする。 それでゐて何も手に附かない、 人知れず廻る なまけぐせの毒酒に ああ、わたしは中てられた。 今日こそは何かしようと思ふばかりで、 わたしは毎日 つくねんと原稿紙を見詰めてゐる。 もう、わたしの上に 春の日は射さないのか、 春の鳥は啼かないのか。 わたしの内の火は消えたか。 あのじつと涙を呑むやうな 鼠色の雲よ、 そなたも泣きたかろ、泣きたかろ。 正月は唯だ徒らに経つて行く。

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