東京にて

与謝野晶子

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わたしはあまりに気が滅入る。 なんの自分を案じましよ、 君を恋しと思ひ過ぎ、 引き立ち過ぎて気が滅入る。 「初恋の日は帰らず」と、 わたしの恋の琴の緒に その弾き歌は用が無い。 昔にまさる燃える気息。 昔にまさるため涙。 人目をつつむ苦しさに、 鳴りを沈めた琴の絃、 じつと哀しく張り詰める。 巴里の大路を行く君は わたしの外に在るとても、 わたしは君の外に無い、 君の外には世さへ無い。 君よ、わたしの遣瀬なさ、 三月待つ間に身が細り、 四月の今日は狂ひ死に するかとばかり気が滅入る。 人並ならぬ恋すれば、 人並ならぬ物おもひ。 其れもわたしの幸福と 思ひ返せど気が滅入る。 昨日の恋は朝の恋、 またのどかなる昼の恋。 今日する恋は狂ほしい 真赤な入日の一さかり。 とは思へども気が滅入る。 若しもそのまま旅に居て 君帰らずばなんとせう。 わたしは矢張気が滅入る。

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