ヹルサイユの逍遥
本文の表示
ヹルサイユの宮の
大理石の階を降り、
後庭の六月の
花と、香と、光の間を過ぎて
われ等三人の日本人は
広大なる森の中に入りぬ。
二百年を経たる橅の大樹は
明るき緑の天幕を空に張り、
その下に紫の苔生ひて、
物古りし石の卓一つ
匐ふ蔦の黄緑の若葉と
薄赤き蔓とに埋まれり。
二人の男は石の卓に肘つきて
苔の上に横たはり、
われは上衣を脱ぎて
橅の根がたに蹲踞りぬ。
快き静けさよ、かなたの梢に小鳥の高音……
近き涼風の中に立麝香草の香り……
わが心は宮の中に見たる
ルイ王とナポレオン皇帝との
華麗と豪奢とに酔ひつつあり。
后達の寝室の清清しき白と金色……
モリエエルの演じたる
宮廷劇場の静かな猩猩緋……
されど、楽しきわが夢は覚めぬ。
目まぐるしき過去の世紀は
かの王后の栄華と共に亡びぬ。
わが目に映るは今
脆き人間の外に立てる
橅の大樹と石の卓とばかり。
ああ、われは寂し、
わが追ひつつありしは
人間の短命の生なりき。
いでや、森よ、
われは千年の森の心を得て、
悠悠と人間の街に帰るよしもがな。
ログインすると、お気に入り登録や選集への追加ができます。
ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。
ヹルサイユの逍遥の談話
疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。
まだ投稿はありません。
ヹルサイユの逍遥に寄せられた作品
詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。
まだ投稿はありません。
批評・感想 0
作品の表現や構成を検討し、根拠を示しながら評価・講評する場所です。
まだ批評・講評はありません。
ログインすると批評・講評を書けます。