加瀬の山から
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唯見れば僅六十尺の山ながら、
登れば橫濱も見える、
遙に品川の海も霞む。
それは東京と横濱との間、
武藏野の一部に介在する小さな突起で、
丘とも見えない小さな山だ。
自分は二百餘人の子供等と共に、
萬歲を唱へながらその山の高地を占領した、
そして秋のさはやかな山氣を感じながらしばし眺望
の中に沒頭した。
子供等のいくたりかはよるこび、
まだ見ぬ海のかすかに見えるのを望みながら、
またわが里の家々を眺:めながら、
『實に高いなあ、實にいゝけしきだなあ 。』と嘆稱
する。
實際に、
高いところから低いところを見ない平原の子供等に
とつて、
このはじめての眺望は、
深い驚異と憧憬を感ぜしめたのだ。
子供等が更に、
『富士の山に登つたらどうだらう。』といふ言葉を發し
た時、
自分は遙に西にかすめる雲を指さし、
『ふだん富士山はあの雲の上あたりに見える、
しかし世界には富士より高い山が澤山ある、』とこた
へると、
子供等の幼年者はふしぎさうな顏をしてうなづき、
其他ばぢつと雲をみつめて立つてゐた。
自分はぢつと子供等の純な愛を感じながら、
『頭を雲の上に出し......... 。』と富士山のうたを唱ひ出す
と子供等はあとについて大聲に唱ひ出した、
そしてそれが秋の空へひろがつて行つた、
自分はかぎりないよろこびを感じ、
共に共に永くあとを引いて山氣の中に唱ひつづけた。
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