暮愁

北原白秋

タグを編集・提案

作品の主題・モチーフなど、対象に固有の情報を登録してください。年代・形式・表記・文学運動などの共通分類は登録できません。会員タグの追加と、正式タグの削除は、5人の支持で自動反映されます。

ログインするとタグの追加・削除を提案できます。

暮れぬらし。何時しか壁も灰色に一室はけぶり、 盤上の牡丹花ひとつ血のいろに浮び爛れて、 散るとなく、心の熱も静寂の薫に沈み、 卓の上両手を垂れて瞑目れば闇はにほひぬ。 窻の外は物古りし街、風湿める香のぬくみに、 寺寺の梵音うるむ夕間暮、卯月つごもり、 行人の古めく傘に、薄灯照り、大路赤らみ、 柑子だつ雲の濡いろ、そのひまに星や瞬く。 わが室は夢の方丈、匂やかに名香なびき、 遠世なる暮色の寂に哀婉の微韻を湛へ、 髣髴と女人の姿光さし続く幾むれ、 白鳥の歌ふが如く過ぎゆきぬ、すべる羅の裾。 そのなかに君は在せり。緑髪肩に波うち、 容顔の清しさ、胸に薔薇色の薄ぎぬはふり、 情界の熱き波瀾に黒瞳にほひかがやき、 領巾ふるや、夢の足なみ軽らかに現なきさま。 ああ、それも束の間なりき。花祭ありし夕か、 群衆のなだれ長閑かに時花歌街を流れて 辻辻に山車練る日なり、行きずりに相見しばかり、 高華なる君が風雅も恋ふとなく思ひわすれき。 今行くは追憶の影――黄金なす幻追ひて、 衰残の心の大路暮れゆけば顧みもせぬ 人生の若き旅びと、――くづをれて匂ゆかしみ 我愁ふ、追慕の涙綿綿と青む夜までも。

ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。

批評・感想 0

作品の表現や構成を検討し、根拠を示しながら評価・講評する場所です。

まだ批評・講評はありません。

暮愁の談話

疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。

まだ投稿はありません。

話題を投稿する

暮愁に寄せられた作品

詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。

まだ投稿はありません。

この詩に作品を寄せる