冬の山岨

北原白秋

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 玉くしげ函根の山は短か日のことに短かく、み冬さり霜下り来れば、午過ぎて日の目も知らず。向つべの山は明れど、こなたなる高山の岨、風寒く木の葉ちるのみ。早や早やも土は凝りて、岩角の犬羊歯が下、枯れ枯れの雑木の根ごと、そくそくと氷柱さがれり。ほきほきと、氷柱掻き折り、かりかりと噛みもて行けば、あな冷た、つめたかりけり。妻もまた冷たよと云ふ。二人ゆく高崖の上、何の枝ぞ透きてこまかにつや黒の果をちらつかす。ふり仰ぎ透かし見すれば、高く澄む空の青きにひえびえといそぐ雲あり、また薄く消ゆるものあり。長尾鳥飛びて叫ぶに行きなづみ、蹲みてあれば、あなさむや、渓裾紅葉鉾杉の暗きを出でて、ひと明り紅く燃えたり。その紅葉淵に映れり。人知らぬ寂びと静けさ。その下に飛び飛びの岩、岩もまた幽けかりけり。冬はなほ幽けかりけり。あなあはれ、欅の枯木、行き行けば見る眼に聳え、滝落ちてかげり陽迅し。あなあはれ、山の端薄陽。下見れば早や塔の沢、こちごちに湯の香煙りて、ちらちらと揺るる燈の見ゆ。海見えて漁火つく見ゆ。この岨や馴れし山岨、遠く来し旅にもあらね、さは急ぐ道にもあらず。我がどちや言にこそ出ね、今さらの連れにもあらねば、ただ二人ほつりほつりと、日の暮はほつりほつりと、また家路さし下るのみなり。下るのみなり。

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