榧と栗

北原白秋

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 伝肇寺、小さき古寺、此寺の山の墓場に、榧と栗並び立ちたり。並び立ちともに老いたり。榧の木は栗の木のそば、栗の木は榧のかたへにさびさびて、すでに老いたり。その榧よいつよりか老い、この栗よいつよりか立つ。榧と栗さびにさびつれ、なほし未だ花は咲きけり。年ごとに花はつけけり。榧の木はかすかなる花、栗の木は露はなる花、その榧に小さき榧の実、この栗に栗の青毬、風吹けば実さへ毬さへまたいつかこぼれこぼれぬ。枯れ枯れて土にかへりぬ。見る人も知る人もなし。寺まうで墓まうでびと、たまさかに蹲み通れど、誰ひとり振りは仰がず、誰ひとり眼にもとめねば、ただ二木立てるのみなる、榧と栗さびるのみなる。あなあはれ、榧と栗の木、落葉する栗も寒けど、常青く立てる榧の木、冬の日はことに高しよ。栗の木はいよよ透けれど、榧の木はいよよか黒く、薄日射函根の入陽秀に受けてひとり尖れり。いや黒くひとり堪へたり。雨まじり霙ふる日も風まじり雪の飛ぶ夜も、こごしくも凍え立ちたり。親しくも立ちて堪へたり。あなあはれ、老木の二木、親しくも並ぶ姿の、寂しくも隣り合ふ木の頼り無き二木を見れば涙しながる。

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