珊瑚切

北原白秋

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午さがり、 渚に緩き波の音。 少女はやがてあてやかに 『何ぞ。』と答へぬ、伏眼して、 紅き珊瑚の枝あまた 撰みつ、切りつ、かろらかに 鋸の歯のきしろへば、 ほそき腕と頬のうへに 薔薇いろの靄さとけぶる。 ややありて、 渚に緩き波の音。 男は燃ゆる頬を寄せて 『君をおもふ。』と忍びかに、 さては手速にうしろより 珊瑚細工の車の柄 かろく廻せば、ためらへる 白の上衣と髪の毛に 薔薇いろの靄さとけぶる。 のびやかに 渚に緩き波の音。 少女は、さいへ、あからみて 『吾も。』とばかり、海の日を 玻璃に透かしつ、やうやうに 形ととのふ恋の珠 磨きつ、吹きつ、をりをりに 車まはせば、美しく 薔薇いろの靄さとけぶる。

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