いただきに煙をあげて

三好達治

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いただきに煙をあげて―― いただきに煙をあげて走つてくる大きな波 ああこの沖の方から惡夢のやうに額をおしつけてくる獸ものたち 起ち上り起ち上り 起ち上り まつ暗な重たい空の重壓から無限におしよせてくる意志 厖大な獸ものの頭蓋 さうしてその碎け飛ぶ幻影 束の間の丘陵とまたその谿間と 遠く遠くはてしない闇黒の四方に飜り揉みあふこゑ いただきに煙をあげて 煙をあげて走つてくる大きな波 起ち上り起ち上り 起ち上る まつしろなその穗がしら―― ながい時間のあひだ私の見つめてゐた幻影 ああこの一つの展望から さやうなら 今はもう私のたち去る時だ 私の精神の上に 苦しく懷しい季節はかくして通りすぎた ――然り私はもうこの岩礁の上からたち去るだらう ふたたびここに歸る時なく 飛沫にぬれた外套の中に凍りながら 彼方に促されてたち去るだらう 心ももと 自由ではない ――駒鳥も冬はうたはぬ かくして彼方に遠のいてゆく遠雷のやうな海鳴りの上に 私はふたたび人の名を呼ばないでせう

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