ここは東京

三好達治

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私はあなたに教へてあげたい ここは東京 燒け野つ原のお濠端です こんなに霧のかかつた夜ですが 女のひとよ ここは北京ではありません また巴里でもありません あなたはどちらへゆかれるのでせう あなたは路にまよはれたのです 私はあなたに教へてあげたい あなたはそんなにもの思はしげに外套の襟に顎をうづめて うすらつめたいこんな夜霧にぬれながら どちらへお歸りのおつもりでせう まあ一度額をあげてごらんなさい その鈴懸の並木のぐあひをごらんなさい 枯木のままの骸骨どもをごらんになつてはどうでせう 幾年ぶりで昔の主人にめぐり會つた飼犬のやうな直感で またその家畜のやうなもどかしさで 私はあなたにあなたの見うしなはれた遠いお住ひを教へてあげたい あなたはいちづな性分です あなたは路をいそがれます 霧の中に消えてゆくあなたの跫音をききながら 私はかうして街燈のかげにひそんでゐるつまらぬ祕密探偵ですが 考へてもごらんなさい 追剥どもの待伏せするこんな夜路をあなたはごぞんじのはずはない はやく夢からおさめなさい 女のひとよ その外套のかくしの中で あなたの手はかたくかたく つめたく握りしめられてゐる 實はたぶんそれがあなたの夢なんですよ ふしぎに淋しく遠ざかつてゆくあなたのうしろ姿にむかつて 私は警笛でも吹いてあげたい ああそらあなたはまたそんな街角を一つ曲つてどちらへゆかれるおつもりでせう こんなに霧のふかい夜ふけですが 女のひとよ ここは東京 燒け野つ原のお濠端です あなたは路にまよはれたのです 女のひとよ

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