縧蟲

永井荷風

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わが父食ふべき餌を欠し給はざりしかば われ年久しく鳥の如く歌ふを得たり。 わが父常に美衣を購ふに嗇ならざりしかば われ宛ら宮廷の詩人の如くに奢るを得たり。 わが父のしゝむらに食ひ入りし 耳もなく目もなき縧蟲のわが身よ。 わが父俄に病みたまふ。 嗚呼われ町に走りて 名医をたづねんか。 山に上りて仙薬を探らんか。 わが父すこやかなれば 縧蟲のわが身とこしなへに餓ゑじ。 とこしなへに肥えなん。 わが思立つ孝のこゝろぞおそろしや。 おそろしや。いとはしや。あさましや。

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