或夜(『自分は見た』収録・同題第2篇)
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小供は眠つた。家の中は靜かになつた。
苦るしい沈默が室の中にある。
妻も夫も默つて小供を見守つてゐる。
小供は馬鹿に大きく見える。
妻の腕に抱かれて足を伸ばしてゐる。
ひつくりかへつて居るのが可笑しいやうに。立派な男の子だ。
見て居ると夫も妻も緊張した苦るしさを感じる
氣の遠くなる樣な冬枯の夜で
空にはどんよりとした月と白い雲がじつと動かずに凍てついて居る、
苦るしい/\永遠の沈默がある。
萬物が同一の法則に漸つと歸つたやうな靜かさだ。
小供は苦るしさうに、壓し出されるやうな吐息をつく
それが靜かに空氣を動かす。
さうして幸福に夢見てゐるやうな安心を與へる。
然し夫と妻は矢張り默つて居る。
遠い遠い過去と未來を何も解らず夢見て
(一九一六、一二月)
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