朝(『自分は見た』収録・同題第2篇)
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朝だ。
重々しいものを優しく包んだやうな莊嚴な朝だ。
自分は山の上にでも居る樣に、
心は輕く歩いてゆく。體はそれに從つてゆく。
一日一日春らしく温くなる水蒸氣に包まれ
樹々はうねりを生じ輕快に高く空に立ち上り
靜かに道の上に枝を垂らして居る。
まるで空中から舞ひ下りた天使のやうだ。
このうねりの春らしい美くしさ、朝らしい靜かな喜び、
空は光りをはらんで霞んで居る。
眠りから覺めた許りの地面は
しつとりと汗を掻いてゐた。
人通りは未だすくない。
空に消えてゆく水蒸氣の中から雄大な景色が目ざめ
だん/\遠くの方がはつきりして
そこから人が現はれて來る。人數も殖えて來る
この大きな朝の世界に比べれば、
可笑しいほど小さい人間が
鳥のやうに、思ひ/\の方向へ歩いて居る
自分は擴大され、變化された
大きな祝福に滿ちた朝景色の中を
面白く嬉々として歩いてゆく。
(一九一八、三、使命所載)
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