自分は見た(『自分は見た』収録・同題第1篇)

千家元麿

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自分は見た。 朝の美くしい巣鴨通りの雜沓の中で 都會から田舍へ歸る肥車が 三四臺續いて靜かに音も無く列り過ぎるのを 同じ姿勢、同じ歩調、同じ間隔をもつて 同じ方向に同じ目的に急ぐのを 自分がぴつたり立止つてその過ぎ行くのを見た時 同じ姿勢で、ぴつたりとまつたやうに見えた。 小さく、小さく、町の隅、此世の隅に形づけられて。 自分はそれから眼を離した時、 自分の側を過ぎ行く人、 左へ右へ急ぐ人が皆んな 同じ方則に支配されて居るのを感じた。 彼等は美くしく整然と一糸亂れ無い他界の者のやうに見えた。 人形のやうに見えた。 自分は見た 夜の更けた電車の中に 偶然乘り合はした人々が おとなしく整然と相向つて並んで居た。 窓の外は眞暗で 電車の中は火の燃えるかと思ふ迄明るかつた。 自分は一つの目的、一つの正しい法則が 此世を支配して居るやうに思ふ 人は皆んな美くしく人形のやうに 他界の力で支配されて居るのだ。 狂ひは無いのだ。つくられたまゝの氣がする。 一つの目的、一つの正しい法則があるのだと思ふ。 自分はその力で働くのだ。

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