千家元麿

タグを編集・提案

作品の主題・モチーフなど、対象に固有の情報を登録してください。年代・形式・表記・文学運動などの共通分類は登録できません。会員タグの追加と、正式タグの削除は、5人の支持で自動反映されます。

ログインするとタグの追加・削除を提案できます。

私の家では 久しぶりに 夜中に妻が髮を洗ふ うまい工合に小供が早く寢たので その隙に 臺所で火をカン/\起して湯を沸かして ばら/\となつた髮をほどいた。 ところがあいにく櫛がめつから無い 箪笥の上の鏡臺の抽出にも火鉢の抽出にも どこを探しても、家中探しても出て來ない 小供の目をさまさせないやうに 音をたてずに探す氣苦勞 とう/\櫛めは出て來ない どこへ一たい隱れて居るのだ 折角御湯も沸いてゐるのに 赤ん坊もよく眠てゐるのに とう/\妻は疳癪を起してしまつた。 とばつちりは俺に來る 俺もない/\はら/\して居たのだ。 何處かで見たやうに覺えがあるが さて思ひ出せない 妻の探したあとを探してどなられる 可愛相に妻はとう/\本氣に腹を立てた 恐ろしい呪の言葉が口をついて出て 箪笥の上の俺の本は疊の上にぶちまけられる 自分位不運な者は無い 小供なんかいらないと恐ろしい事を云ふ 俺も負けないで賣言葉に買ひ言葉 とう/\二人は默つてしまふ。 妻は自暴半分で髮を洗ひ出す 俺は如何うかして目つけてやりたいと 親切氣を出して探し廻る音に あいにく子供が泣き出した。 可愛相に赤ん坊は眞赤になつてすかしてもだましても泣く。 眼には恐れと苦しさが一杯涙とまじつて見える 濡れたまゝの髮で妻が臺所からやつて來る 見馴れない形相に赤ん坊は變な顏 枕の上に布をあてがつて濡れた毛のまゝ 妻は添寢をさせて遣る。 小供は安心して眠つてゆく 臺所ではやかんのふたが踊り出し 水と火が喧嘩を初める 俺は櫛めを又探す 然し櫛めは何處かにはさまつて出たくても、 出られないでもがいてゐるにちがひない、 その隙に小供の床からぬけ出した妻は 新しい櫛を買ひに闇にまぎれて走つてゆく 小供はもう眼はさめない。 夜が更けても妻は鏡臺の前に腰を据ゑて 遲くまで眠ら無い。 鏡臺の抽出が急がしく開けたてされる音と リスリンを手につけてこする音が隣りの室から聞えて居る。

ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。

批評・感想 0

作品から読み取ったことや、自分の中に生まれた感覚をまとまった文章で残す場所です。

まだ解釈・感想はありません。

櫛の談話

疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。

まだ投稿はありません。

話題を投稿する

櫛に寄せられた作品

詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。

まだ投稿はありません。

この詩に作品を寄せる