ひとづま(『白羊宮』収録)

薄田泣菫

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あえかなる笑や、濃青の天つそら、 君が眼ざしの日のぬるみ、 寂しき胸の末枯野につと明らめば、 ありし世の日ぞ散りしきし落葉樹は、 また若やぎの新青葉枝に芽ぐみて、 歡喜の、はた悲愁のかげひなた、 戯るる木間のした路に、美し涙の 雨滴り、けはひ靜かにしたたりつ、 蹠やはき『妖惑』の風おとなへば、 ここかしこ、『追懷』の花淡じろく、 ほのめきゆらぎ、『囁き』の色は唐棣に、 『接吻』のうまし香は霧の如、 くゆり靡きて、夢幻の春あたたかに、 醉ごこち、あくがれまどふ束の間を、 あなうら悲し、優まみの日ざしは頓に、 日曇り、『現し心』の風あれて、 花はしをれぬ、蘗えし青葉は落ちぬ、 立枯の木しげき路よ、ありし世の 事榮の日は、はららかにそそ走りゆき、 鷺脚の『嘆き』ぞ、ひとり青びれし 溜息低にまよふのみ。――夢なりけらし、 ああ人妻、―― 實にあえかなる優目見のもの果なさは、 日直りの和ぎむと見れば、やがてまた、 掻きくらしゆく冬の日の空合なりき。

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