加古河をすぎて

薄田泣菫

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横雲峯にたなびきて、 光まばゆきこの夕、 波しづかなる加古河の 澪に小網ひく蜑が子よ。 淺瀬の波にはしりよる 鮎子な追ひそ、苦き世の 味なき酒の盃を、 われ水上に注ぎしに。 水面に落ちて光ある 廣き額の色みれば、 鋭き爪の凶神は、 見ざりけらしな蜑が子よ。 君妻ありや、すさびゆく 風あらあらし人の世に、 胸やはらけき女子こそ、 頼みの宿と知りたまへ。 君稚兒ありや、懷かしき 乳房をふくむくちびるに、 いろも銹びつる智慧の井の にがき雫なすすらせそ。 小網にかかれる白鮠の われもかひなく驚きて、 唯恐れある物狂、 ここに道なし、快樂なし。 行方も問ふな、名も問ふな、 弛める弦の音にも似て、 風にわななく一ふしの 弱きしらべを聞けな、唯。

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