*樂のすずろぎ

薄田泣菫

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衣かづき腕たゆげに、 夕月は門にこそゐよれ。 靜寂は清み酒の如、 野も山もねむげに醉ひつ。 ひともとの河原赤楊、 うなだるる下枝の梢、 四の緒は風に歌へり、 しろがねの音色もゆらに。 『わが絃の一には、天の 飛車、星のどよもし。 二の緒には、青うなばらや、 海神の浪のゑわらひ。 『三の緒は、瑞樹のかくれ、 たわや女が夏の夜の夢。 四には、はた巖根の小百合、 あけぼのの香のささやきを。 『今宵しも思ひあがりつ、 美し音は神もこそ聞け、 常樂界の、はた黄泉の 魂むすび、――今暫の間を。』 琴の音は低にゆるびぬ、 ああ今か、小野の草だに、 奇し御靈葉にもゆらぎて、 靜歌の音にはたつらめ。 *詩集『四の緒琴』に序す

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