魂よ
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魂よ
この際だからほんとのことを言うが
おまえより食道のほうが
私にとってはずっと貴重だったのだ
食道が失われた今それがはっきり分った
今だったらどっちかを選べと言われたら
おまえ 魂を売り渡していたろう
第一 魂のほうがこの世間では高く売れる
食道はこっちから金をつけて人手に渡した
魂よ
生は爆発する火山の熔岩のごとくであれ
おまえはかねて私にそう言っていた
感動した私はおまえのその言葉にしたがった
おまえの言葉を今でも私は間違いだとは思わないが
あるときほんとの熔岩の噴出にぶつかったら
おまえはすでに冷たく凝固した熔岩の
安全なすきまにその身を隠して
私がいくら呼んでも出てこなかった
私はひどい火傷を負った
おまえは私を助けに来てはくれなかった
幾度かそうした眼に私は会ったものだ
魂よ
わが食道はおまえのように私を苦しめはしなかった
私の言うことに黙ってしたがってきた
おまえのようなやり方で私をあざむきはしなかった
卑怯とも違うがおまえは言うこととすることとが違うのだ
それを指摘するとおまえは肉体と違って魂は
言うことがすなわち行為なのであって
矛盾は元来ないのだとうまいことを言う
そう言うおまえは食道がガンになっても
ガンからも元来まぬかれている
魂とは全く結構な身分だ
食道は私を忠実に養ってくれたが
おまえは口さきで生命を云々するだけだった
魂よ
おまえの言葉より食道の行為のほうが私には貴重なのだ
口さきばかりの魂をひとつひっとらえて
行為だけの世界に連れて来たい
そして魂をガンにして苦しめてやりたい
そのとき口の達者な魂ははたしてなんと言うだろう
Ⅱ
ここの詩は入院直前および手術直前に属するもので、本当はⅠの前に掲げるべきものである。順序が逆なのだが、それをなぜⅠの次にしたか、自分でもよくわからない。自分の気持としてそうしたかったからだが、詩のできがⅠのほうがいいと思えるのでそれをさきに見てもらいたいという虚栄心からかもしれぬ。
「みつめる」「黒板」「小石」「愚かな涙」「望まない」などは当時ほとんど即興的に書き流したままの詩で、のちの手入れがほどこされてないので、発表のはばかられる稚拙と自分で気がさしているのかもしれぬ。
「青春の健在」「電車の窓の外は」などは車中でのメモにもとづいて、のちに書いたものである。これは当時の偽らざる実感で、死の恐怖が心に迫ってきたのはあとからのことである。
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