破鐘

上田敏

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悲しくもまたあはれなり、冬の夜の地爐の下に、 燃えあがり、燃え盡きにたる柴の火に耳傾けて、 夜霧だつ闇夜の空の寺の鐘、きゝつゝあれば、 過ぎし日のそこはかとなき物思ひやをら浮びぬ。 喉太の古鐘きけば、その身こそうらやましけれ、 老らくの齡にもめげず、健やかに、忠なる聲の、 何時もいつも、梵音妙に深くして、穩どかなるは、 陣營の歩哨にたてる老兵の姿に似たり。 そも、われは心破れぬ。鬱憂のすさびごゝちに、 寒空の夜に響けと、いとせめて、鳴りよそふとも、 覺束な、音にこそたてれ、弱聲の細音も哀れ、 哀れなる臨終の聲は、血の波の湖の岸、 小山なす屍の下に、身動もえならで死する、 棄てられし負傷の兵の息絶ゆる終の呻吟か。

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