なづさふ野火

横瀬夜雨

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白雲低き足柄の 山は遙に亙れるを いかゞ越えけむ西風に 雁鳴く野とはなりにけり 緑沈める川上の 峽よりかけて斷續に 見ゆる林のおぼろ/\ 秋際無き霧の海 踏むに音せぬ曉の 茅萱の露に眉ぬれて 行けども寢る家無き子の 慰藉失せし野に立てば 光をつゝむ青雲の 向伏す極み秋は來て 長き堤の東に 殘れる月の纖きかな 「今は別れとなりにけり 母よ」と呼べど言はで 父と並べる墓の 涙は終に見ざりしか 路遠くして獨行く 旅は心のさびしきを 尾花亂るゝ古里に 遺れし妻を戀ふれども さもあれ馴れし小月波の 山は霧より現はれぬ 山は霧より現はれて 朝はふたゝび此に在り 風は胡蝶の羽翼を裂き 霜は猿の食を奪ひ 秋老いにける朝毎に うつろふ空の高けれど 垂尾地に摺る山禽の 出で入るあたり草枯れて なづさふ野火の煙のみ 動くと見えて日は寂寞に   ~~~~~~~

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