暴風

与謝野晶子

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洗濯物を入れたまま 大きな盥が庭を流れ、 地が俄かに二三尺も低くなつたやうに 姫向日葵の鬱金の花の尖だけが見え、 ごむ手毬がついと縁の下から出て、 潜水服を著たお伽噺の怪物の顧眄をしながら 腐つた紅いダリアの花に取り縋る。 五六枚しめた雨戸の間間から覗く家族の顔は どれも栗毛の馬の顔である。 雨はますます白い刄のやうに横に降る。 わたしは颶風にほぐれる裾を片手に抑へて、 泡立つて行く濁流を胸がすく程じつと眺める。 膝ぼしまで水に漬つた郵便配達夫を 人の木が歩いて来たのだと見ると、 濡れた足の儘廊下で跳り狂ふ子供等は 真鯉の子のやうにも思はれた。 ときどき不安と驚奇との気分の中で、 今日の雨のやうに、 物の評価の顛倒るのは面白い。

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