怖ろしい兄弟
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ここの家の名前人は
総領の甚六がなつてゐる。
欲ばかり勝つて
思ひやりの欠けてゐる兄だ。
不意に、隣の家へ押しかけて、
庇ひ手のない老人の
半身不随の亭主に、
「きさまの持つてゐる
目ぼしい地所や家蔵を寄越せ。
おらは不断おめえに恩を掛けてゐる。
おらが居ねえもんなら、
おめえの財産なんか
遠の昔に
近所から分け取りにされて居たんだ。
その恩返しをしろ」と云つた。
なんぼよいよいでも、
隣の爺には、性根がある。
あるだけの智慧をしぼつて
甚六の言ひ掛りを拒んだ。
押問答が長引いて、
二人の声が段段と荒くなつた。
文句に詰つた甚六が
得意な最後の手を出して、
拳を振上げ相になつた時、
大勢の甚六の兄弟が
がやがやと寄つて来た。
「腰が弱ゑいなあ、兄貴、」
「脅しが足りねえなあ、兄貴、」
「もつと相手をいぢめねえ、」
「なぜ、いきなり刄物を突き附けねえんだ、」
「文句なんか要らねえ、腕づくだ、腕づくだ、」
こんなことを口口に云つて、
兄を罵る兄弟ばかりである、
兄を励ます兄弟ばかりである。
ほんとに兄を思ふ心から、
なぜ無法な言ひ掛りなんかしたんだと
兄の最初の発言を
咎める兄弟とては一人も居なかつた。
おお、怖ろしい此処の家の
名前人と家族。
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