旅行者

与謝野晶子

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霧の籠めた、太洋の離れ島、 此島の街はまだ寝てゐる。 どの茅屋の戸の透間からも まだ夜の明りが日本酒色を洩してゐる。 たまたま赤んぼの啼く声はするけれど、 大人は皆たわいもない夢に耽つてゐる。 突然、入港の号砲を轟かせて わたし達は夜中に此処へ著いた。 さうして時計を見ると、今、 陸の諸国でもう朝飯の済んだ頃だ、 わたし達はまだホテルが見附からない。 まだ兄弟の誰れにも遇はない。 年ぢゆう旅してゐるわたし達は 世界を一つの公園と見てゐる。 さうして、自由に航海しながら、 なつかしい生れ故郷の此島へ帰つて来た。 島の人間は奇怪な侵入者、 不思議な放浪者だと罵らう。 わたし達は彼等を覚さねばならない、 彼等を生の力に溢れさせねばならない。 よその街でするやうに、 飛行機と露西亜バレエの調子で 彼等と一所に踊らねばならない、 此島もわたし達の公園の一部である。

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