無花果の園

北原白秋

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なにか泣く、野より、をとめよ、 無花果の汝が園遠く われは来ぬ。いざ眼をあげよ。 今日もまた葉かげ、実がくれ、 甘き香の風に日あびて 語らまし。いざ手を交せ。 さは泣くや、夜にか、をとめよ。 汝が園は焼けぬと。草も、 無花果の樹も実も無しと。 おお、なべて園はいたまし。 葉も幹も、ああ、実も香もか、 草の床――恋の巣までも。 さあれ、よし。白帕やはに うるはしき汝が頬の涙 まづぬぐへ。すみれのにほひ。 曾て汝は春のほこりに、 なに誓ひ、いづれ惜みし この恋と、その古園と。 ああ、園は野火に焼かれて 今は無し。――美し追憶 ただ胸の香にこそにほへ。 さば尋めむ、恋の歓楽。 今日よりは、野山に、谷に、 百合、さうび、花の日の栄。 ああ、かくて、終の愛欲。 火と燃えて身を焼く夜にも、 汝は泣くや、いかにをとめよ。

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