醋の甕

北原白秋

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蒼ざめし汝が面饐えよどむ瞳のにごり、 薄暮に熟視めつつ撓みちる髪の香きけば―― 醋の甕のふたならび人もなき室に沈みて、 ほの暗き玻璃の窓ひややかに愁ひわななく。 外面なる嗟嘆よ、波もなきいんくの河に 旗青き独木舟そこはかと巡り漕ぎたみ、 見えわかぬ悩より錨曳き鎖巻かれて、 伽羅まじり消え失する黒蒸汽笛ぞ呻ける。 吊橋の灰白よ、疲れたる煉瓦の壁よ、 たまたまに整はぬ夜のピアノ淫れさやげど、 ひとびとは声もなし、河の面をただに熟視むる。 はた、甕のふたならび、さこそあれ夢はたゆたひ、 内と外かぎりなき懸隔に帷堕つれば、 あな悲し、あな暗し、醋の沈黙長くひびかふ。

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