時鐘

北原白秋

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身にか沁む。――『わが世がたりも はや尽きぬ。興もなき事。 わかうどよ、紅き炉の火に 美しき足袋をな焼きそ。 かの宵の恋にもまして うそ寒き夜にもあるかな。』 老媼かくつぶやきながら 力なう柴折りくべぬ。 そともには雪やふるらむ。 燃ゆる眼にわかきは見あげ、 言葉なく、またうつぶきぬ。 ひとしきり、沈黙やぶれて、 煤けたる江戸絵の壁に 禁軍の紅帽あかり、 はちはちと火の粉飛びちり、しづまりぬ。 九時にかあらむ。 ああ今、目白僧園の鐘鳴りやみぬ。

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