紅花一輪

三好達治

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なつかしき南の海…… なつかしきは伊豆の國かな 二日三日 わがのがれきて ひとり愁ひを養へる 宿のうしろのきりぎしの ほのぐらき雜木まじりに ひともとたてるやぶ椿 いま木洩れ陽のかげうごく ふとしも見れば ここだくの花は古りたる もも枝の そのひと枝ゆ この朝さきしばかりの 新らしき紅花一輪 廊わたるわれにむかひて眼くばせす 神在す―― わが心既におとろへ 久しくものに倦んじたり 神在すとは 信うすきわれらが身には 何の證しもなけれども われは信ず ただにわづかに われは信ず かの紅花一輪 わがためにものいふあるを 如何に 如何に 人人百度もわれをたばかりあざむく日にも われは生きん われは生きん ――かの一輪の花の言葉によりてこそ

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