垣にそひて

室生犀星

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まだ青い垣根にそうて うら町の静かな路がつづいてゐる。 どの家にもささやかながら庭があり 庭には雨あとの水がたまつてゐる 清い水の上に木の影がある。 さういふ景色のなかに 動かない秋がこもつてゐるのか わたしの歩みも静まる心もちがする 湿りをおびた土の上に 垣根の葉が濃かい。 さういふ景色のなかで わたしはふと耳をかたむけた。 聞えないくらゐひつそりと 誰かが爪を剪つてゐるらしい音がしてゐる。 さういふ景色のなかで 貝のやうな爪を切る寂しい音がつづく 爪は心に重みのあるときや 悒悒したときによく伸びるといふ その爪を女が椽側でひつそり切つてゐるのだ。

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