退屈な舟あし

室生犀星

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こんなに雨のふるのに そと出をしなくともよいのに ぬかつた道路へわたしは出てゆくのだ そしてせいぜい煙草をひとつくらゐ買つて 雨にぬれた馬と車と人とを眺め またもときた道路へひきかへすのだ 誰も見てゐないので引きずつて歩いた悲しい今日の心を さて何にさぐりあててよいのか 家も馬も車も人も樹も悒せく濡れてゐた その中をあるいてゐる私も 雨にけぶつた一すぢの河の上にも 快活を失つたあめいろの舟が濡れてゐた。 あんなに快活な舟でさへも 何といふ寂しいあしなみであつたことか 退屈ざましをしらない人生の或る日には きさくな私さへ 馬や車や人や家や橋にまぎれて とぼとぼとわるい顔いろをして歩いてゐた。

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