幽艶

佐藤惣之助

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女よ、女よ 林中の 陰ふかいすずやかな部屋に灯がともり おそき月木の間にさしいでて 影をまとひ、色をまとひ 愁ひつつ或は喜び、灯にうつり、影に入り 秋の匂やかな二つの眼をぢつとそそいで 夜に塗られた銀と藍との衣裳を引きゆたね 小さい扇のやうな盃をあげしほの明るかつた時は 曉色なすいつの夏の夜であつたらうか。 ひそかに、ひそかに、女よ、思ひ出て見よ 枝はさつさと風をはらひ、水は月影をふくみ、ふくみ もうろうと煙の如く醉へば 涼やかなる幽情は灯を消し、月をさへぎり ほの青き霧の風景を部屋にしづめて 雨の匂ひを感じ、美しき夜氣を點じ うす紅色の頬に朝のくるまで その黒髮のふかいものの氣を竹林のやうに あの木の間の月に洗ひ清めた時は いかに微かな幽玄なる時代であつたらうか。

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